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2019年10月28日 by 池永 寛明

【起動篇】日本は世界についていけてる? 〜日本のこれからの産業のカタチを考える (1)


インドのそのニュースに接したテレビコメンテーターの、「え?インドが航空宇宙ですか? ちょっと…」とコメントする姿が象徴的だった。“それでは、あなたのインドはどんな国なの?”と訊きたくなった― あなたが思っているインドは、まさか“カレーを食べて、ガンジス川で沐浴している”イメージじゃないでしょ?インドは日本よりも大学博士は多い国で、科学技術大国なんだけど…。


7月に打ち上げられたインドの無人探査機が月面着陸に失敗したときの、インドのモディ首相の技術者たちへのメッセージは感動的。「新たな夜明けはすぐに来るだろう。科学に失敗はない。あるのは挑戦と努力だけだ。」「人生は山あり谷ありだ。わが国はあなた方を誇りに思っている。我々はまだ希望に満ちており、引き続き宇宙開発に注力していく。」―この首相の言葉が、技術者たちの心に火をつけたのは間違いない。


インド、インドネシア、メキシコ、ブラジルのことを「日本人」はどう見ているのだろうか。ブラジルには世界第3位の旅客機メーカー「エンブラエル」がある。日本人は、ブラジルのこの会社が小型ジェット機の世界シェアを握っていることを不思議がる― “ブラジルの飛行機で大丈夫なの?”と。この認識、まったくちがっている。ブラジルは「技術先進国」として世界的に評価されているのに、「日本人」はアマゾンのジャングルやコーヒーの国というようなイメージでブラジルを色眼鏡で見る人が多い。井の中の蛙大海を知らず、世界の急変を実感せず“日本の技術は優れていて、世界は遅れている”という固定観念に日本人はとらわれ、どんどん見識を狭めていった。若し世界から日本のことを「フジヤマ・ハラキリ・ゲイシャ・スシ」の国、「北海道の原野でヒグマの木彫り」をつくっているというような姿で日本の現在を見られたら、日本人はどう思うのだろうか。


うすっぺらい「先入観」が日本を蔓延している。北朝鮮がロケットを発射しつづけている。その技術力は普通に考えれば「すごい」が、“あんなもの、ロシアから輸入しているのとちがうか。北朝鮮にはロケットを飛ばす技術はない”と侮ったりする。もともとの原型があったとしてもロケットを飛ばしているのは、北朝鮮の技術者。その「事実」を見ない。ましてや“ロシア”も馬鹿にする。“ロシアは資源の国だから石油と天然ガスと木材がなくなったら…”といったりするが、ロシアは軍事技術や資源開発技術だけでなく、航空宇宙技術や大型交通技術は極めて高い。


“下町ロケット”という企業ドラマが評判になった。このドラマをアップセット(番狂わせ)的なサクセスストーリーとして観て感動して日曜の夜が爽快な気分になるのはいい。しかし“下町ロケットを観て日本の技術者たちが涙する”というけど、現実はそうなのか。“このすごい技術、わかってもらえないけど…”が前提だが、本当に優れた技術ならば、どんなご時世でも「引っ張りダコ」になるはず。視聴者へのありがたがらせ方がすこしずれている。そういう「時代」ではない。もうひとつ“ずれ”がある。いわゆる大企業は下町の工場の優れた技術に対して、“あんなもの、うちの技術力だったら、すぐつくれる。前に検討したけどマーケットがないからつくらなかった”といったりする。“しなかったこと、できなかったこと、負けたこと”への言い訳ばかりする。


世界の売上高ランキングの上位に中国の企業が並ぶ。この上位ランキングを見て、日本人は上位の中国企業を“中国は高度経済成長期だから、人口が多いから売上高はあがるよ”という。ここでも、日本企業はこういう、“あんなもの、日本だったら簡単につくれる、つくれるけどしなかった”と、真実を、背景の構造をみようとしない。


「先入観」をもっている。詳しく見もせず聴きもせず、はじめから、“新しいもの”と馬鹿にする。たとえばスポーツ産業はアメリカが世界最大で50兆円、日本は5兆円、急拡大している。外国人の訪日旅行の意味に使われる「インバウンド」もチャラい扱いをされている。海外から日本に来られる人が1人10万円つかわれるとして1万人の人が来られたら10億円、昨年3000万人お越しいただいたので30兆円以上。30兆円といえば日本最大のトヨタ自動車と同じくらいの売り上げ規模感である。しかもインバウンドは貿易外収支・輸出産業。輸出が伸び悩んでいるなかで、抜群に急成長している産業が観光産業。でもあるのにチャラい扱いをする。


観光産業はどうしてそんなに粗末に扱われるのだろうか。スポーツ産業もなんとなく色物のように扱われる。音楽産業も添え物みたいな理解がされる。エンターテイメント産業でどれだけ金が動いているかは殆んど知られていないし、関心すらない。かつて“鉄は国家なり”といっていた鉄鋼産業よりも金を動かしている。アニメも世界に通用し、昔からすごいが、軽んじられている。コミックマーケットに集まっている人をオタクみたいな扱いをしているが、この人たちが動かしているお金はどれくらい大きいと思っているのだろうか。マーケットを大きく動かしているeスポーツも、そう。世界では急成長しているが、日本ではゲームマニアの趣味的な扱いにされている。


日本は「世界の流れ」についていけているのだろうか。日本は「人口減+超高齢・少子化→国内市場は縮小する」から海外シフトをしなければと各社いうが、大半の企業はこれまでと同じスタイルで国内市場が商売の中心で、日本の輸出は伸び悩む。これだけ移動アクセスが充実し、ネット・マスコミの報道などで「世界」に簡単にアクセスできるのに、「世界の実相」を「実観」しない。外に向かわず内向きになり、昔からの先入観で「世界」を見ているから、「世界の姿」がつかめない。それはなぜか。かつての日本の成功産業の成功者という「先行者」が実権を握りつづける。まさに「先行者優位」がつづく。先行者たちはかつての成功体験から抜けだせず、世の中で大きく変わるゲームのルール、世界の変化についていけない。そんな先行者が中心に居座り、新しく入ってくる人たちの邪魔をする。まるで満員電車に乗ろうとする若者たちを入れてあげないかのように。これが日本の成長の壁となる。


今回より「文化」の観点から、日本の産業の今とこれからのあり方を考えていきたい。



(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


〔日経新聞社COMEMO  9月18日掲載分〕