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2019年05月13日 by 池永 寛明

【耕育篇】 塩梅の妙 ─ “これでいい”の次の瞬間に“これでいいのか?”を始める


「あんばい」という言葉がある。

具合よく並べたり、ととのえたり、物事を進めることを「按配」というが、もとは日本料理で塩と梅酢それぞれを加減して、味の加減をしていた「塩梅(えんばい⇒あんばい)」が言葉のルーツ。


日本料理の形は、季節、食材、人の体調によって常に変わる。

器も料理の順番も変えるが、味つけも大きく変える。料理に使う醤油や塩の配分は、冬の73の配分を、初夏には46とし、夏には37と、季節ごとに旬ごとに変えるのが本物の料理人。しかし近年、料理本やネットのレシピに料理ごとの調合・配分比率が書かれているため、その比率で1年間同じ味つけをしようとする。しかし季節、食べる人のコンディションによって、「美味しい」と感じたり、感じなかったりする。


それは料理だけではない。

前につくったやり方で、次に再現したら同じものになるものもあるが、同じようにしても同じものにならないものがある。そもそもなにかをつくるときに1回で、「これだ!」というものができあがることなど、そうそうない。こうしたらいいのかな、この方がいいのかな、となんどもなんども「塩梅」を求めて、いいもの、美味しいものをめざして、つくってきたのが日本の仕事の流儀だった。しかし今の日本のモノづくり、商売開発、人材育成で、これが抜けてしまっている。


マニュアル、ガイドブックに書かれた「ノウハウ」や「レシピ」の「何対何」が、標準化、スタンダードとなってしまう。それをみんなは疑いもせず受け入れようとする。しかしなかには、「本当にいいのかな?」ということもあるが、「王様の耳はロバの耳」をおそれ、みんなが「これでいいのだ」といいだすので、「ちがうのではないか」といえなくなる。今の日本の社会には、そういうこと、話がいっぱいある。


モノづくりは、「塩梅を求めつづける」スタイルをとる人がプロ。

塩梅を求め、トライ&エラーしてつくったバランスした状態を固定したものとして考えるのではなく、常にバランスを求めていく姿勢・スタイルをとってきた。何度も何度も工夫して、バランスした状態ができたからといって、その状態を固定化して考えるのではなく、常に「バランスを求めていこう」としてきた。


「これでいい」とおもった、

その次の瞬間に、「これでいいのか?」の問いから始めないといけない。しかしそもそも「これでいいのか?」というのは、「これでいい」が実現していないといえないのだ。「これでいい」という状態があってからの「ズレ」を「これでいいのか?」と問いつづけるのがプロだった。


しかし現代の様々な問題は、「これでいい」ができていないことからおこる。

“こんなことでいいのか?”“わが社は、こんなことでいいのか?”という前に、「これでいいだろう」ということを実現する、示さないといけないのに、それができていない、していないところが多い。

「これがいい」ができたうえで、「これでいいのか?」と考え、問題提起しなければいけない。「これでいい」がないのに、「これでいいのか?」はない。


自転車の運転を考えたらわかる。

それは、自転車の運転はバランスをとりつづける。これなら、もう大丈夫、走れるという状態を固定していたら、転(ころ)んでしまう。自転車の運転で、つねにバランスをとっているのは、まさに「塩梅」を求めつづける姿そのものである。右に倒れるでもなく、左に倒れるのでもなく、いつも両手でハンドルをとりながら、バランスをとりつづけないと転んでしまう。


私たちが失くしつつあることは、

1回できあがった「バランス」を固定化するのではなく、「これでいいのか」「次はこうした方がいいのか」と「塩梅」を求めつづけること。この「塩梅」を求める心、スタイルを多くの人が忘れつつある。そこからも、日本の力がおちていく。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  44日掲載分

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