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2018年10月24日 by 池永 寛明

【起動篇】 わが社はいったい何者かを問いつづけよ ─ 再定義の時代

  


「床を優しくしてあげたいという日本人の気持ちがすごい」と語るのがダイソン創業者。ダイソン氏が考えたデュアルサイクロン方式の掃除機を日本人が関与して洗練させて画期的な世界的掃除機に育てたという話は有名である。ダイソンの掃除機にかかわった日本のエンジニアだけでなく、エンジニア以外の人たちが、モノを大切にし、モノの美、機能、素材に対して愛情を注ぐ日本人の「感性・センス」に、ダイソンの創業者は驚いたという。ダイソンの掃除機をダイソンたらしめるために、日本人の「洗練していくセンス」に学ぶとともに、ダイソン掃除機には日本製の素材・部品が多く用いられている。


2ヶ月前に訪れた「人類史上、最速で成長する街」といわれる1250万人の中国・深?で、こんな話を聴いた。「みんなで話しあって、“こんなものがあれば良いな“とアイデアが浮かぶ。じゃ、それを作ってみようということになり、知り合いと連携して、その日中にそのアイデアを”形”にする。できあがったら市場で試す。お客さまの反応を視て、お客さまの感想に耳を傾け、修正し、直して、また試す。それを繰り返していくうちに、どんどん良くなる。このようにして、すごいモノやコトやサービスがブラッシュアップされ、高速で市場に出ていく」と。


日本で議論されている「これから出てくるモノ・コト・サービス」が深?ではすでに次々と試されている。ドローン、ウィーチャットペイ、シェア自転車、出前アプリ、配車アプリ、EC電気自動車、ロボット、一人カラオケなど、AIIotを実装したモノ・コト・サービスがいたるところで見かける。2030歳代が6割を占める若い都市で、モノ・コト・サービスが「実験」的につくられ、「実験」的に受け入れられ、新たな魅力的なものが深?速度で生まれていく。


人口減少、高齢化、少子化 ─ 右肩上がりから右肩下がりとなったと感じる日本市場。やれ家電製品が売れなくなった、やれ自動車が売れなくなった、やれ家も売れなくなった日本。それにひきかえ中国、インド、東南アジアは急成長している、どんどんモノが売れる。気がつけば世界経済のバランスが変わった。どうなっているんだろう、日本はこれからどうなるのだろう、大丈夫だろうか?追い抜かれるのではないか、いやすでに追い抜かれているのではないだろうかといった、悲観的で、思考停止したような声が、いろいろな人、いろいろなところから聞こえてくる。




「プロフィット・プール」という考え方がある。


利益のかたまり、売上高×利益率=利益の構造。バリューチェーンにおいて各分野・事業の収益が現在、どうなっていて、過去から現在、未来という時間軸のなかで、何にどこに注力すべきか、どう事業を変えていくべきかという考え方である。市場の変化、価値観、技術の進歩、ライフスタイル、ビジネススタイルの変化、商品サイクル・商品のコモディティ化などの動きを掴んで、次を読み、総合的に考えて、経営の舵取りを変えていくことであるが、日本人はこの分野が苦手な人が多い。


「再定義」の時代である。


たとえば車を売って儲けていた自動車産業、テレビを売って儲けていた電器メーカー、髪を切って儲けていた散髪屋さん、移動手段としての自転車を売って儲けていた自転車メーカーも、人口が減ってきたら、これまでどおりに考え、これまでどおり行動していたならば、販売数量が減る。


「駅馬車会社」の話を思い出す。


産業革命前のイギリスの主力輸送機関だった「駅馬車会社」は、いかに馬で早く運べるのか、いかに多くの人を運べるかという経営をつづけていた。駅馬車会社は駅馬車に固執していたため、新たに生まれた機関車や自動車の存在・動きに気がつかず、お客さまを奪われ、駅馬車会社は衰退していった。自らの事業を「輸送事業者」と定義し、市場・技術の変化を捉えていたら、時代は変わったかもしれない。自動車産業は何屋?家電産業は何屋?散髪屋さんは何屋?と常に問いつづけないといけない時代。とりわけ時代速度がかつてないほど早いから、変化は必須。


20年前、30年前と比べても、日本の「市場」は変わった。世界も10年前、20年前と変わっている。にもかかわらず同じやり方をしていたらうまくいかない。そのことは頭で判っているが、行動できない人・企業が圧倒的。


最終製品で勝負する時代ではなくなった。


中国やシンガポールやベトナムなどのアジアを訪ねると、その成長に驚く。日本との勢いの違いに圧倒される。しかし日本企業が駄目というわけではない。たとえば中国の電気自動車しかり新幹線しかりスマホしかり、基幹部品、主要部品、重要なメンテナンス機器は日本企業製。海外で「最終製品」が売れれば売れるほど、日本製の基盤部品が売れる。


プロフィット・プールの変化、事業の儲け方は、時代とともに変わる。車が売れないとか、テレビが売れないとかといったように、最終製品の増減のみに目を奪われるのではなく、事業・利益・製品のあり方に目を向けるべきである。日本企業はその商品が商品たらしめる中核部品やサービスの品質を高めつつコストを下げつづけ、お客さまをフォーカスしつづけることに軸足をおくべきではないだろうか。プロフィット・プールを変えて事業を再定義して発展しつづけている企業や事業は、日本には沢山ある


(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  928掲載分