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2018年07月30日 by 池永 寛明

【交流篇】 人が見ていると、良い人になる日本人。人が見ていないと、悪い人になる日本人。

 


おばあさんが商店街を自転車を押して歩いているところに、小学生の自転車が後ろからつっこみ、おばあさんはよろけて自転車にはさまれ、動けなくなった。周りにいた人たちがおばあさんを救出し、救急車を呼んでいたところに、たまたま警察官とその子の通っている小学校の先生たちがいたので、事後処理をまかせた。


それから4ヶ月後、商店街で、そのおばあさんに会った。「複雑骨折したので、3ヶ月入院していたの。私が一人で倒れて骨折したことになっているようなの!」とおばあさん。「え?小学生の関係者とはどうなったの?」と訊ねると、「それがねだれも来ないし、連絡もないのよ」と、ボルトを入れた足をさすりながら、おばあさん。小学生がおばあさんにぶつかり、おばあさんが怪我をしたのは明らか。にもかかわらず、子どもやその親、小学校の先生も誰も病室に来なかった。退院後も来ないという。どうなっているのだろう。おばあさんが怪我をした商店街では、自転車を押して歩いてほしい」との運動をしている。にもかかわらず、自転車で突っ走る人が減らない。どれだけの人が怪我をしたら、ルール違反がなおるのだろうか?


「赤信号で待つのは中国人、信号を守らないのは日本人」という風景をよく見かける。かつて車がまったく通らない交差点の信号が青信号になるまでじっと待っていた日本人が赤信号なのに歩きだす姿に、海外の人は驚く。それだけではない。駅のプラットフォームで行列を組んで電車を待っているところに、我先に横入りする日本人の姿に驚く。ヘッドフォンが大きく音漏れし、スマホでゲームをして、亀の甲羅のようなリュックサックで混雑する社内のドア近くを占拠する日本人の傍若無人さに唖然となる。電車内で大きな声でお喋りする外国人を見かけることもあったが、今では口に指を当てて「静かにしましょう」という仕草をする外国人が増える一方、日本人が大騒ぎをしている姿を見かける。年輩者に席を譲る外国人に、席を譲らない日本人。外国人の方が礼儀正しくルールを守っている。どうなっているのだろうか?


一方、サッカー・ワールドカップで日本のファンがゴミ袋を手にスタンドを歩き回ってゴミ拾いをする姿や、日本代表チームのベルギー戦後にロッカーを綺麗に掃除していたことが世界で称賛されたり、甲子園の高校野球のアルプススタンドを各校の応援団が掃除する姿が中国で話題になったりしている。それはそれで佳いことだ。そのことを日本流だとか、当たり前のことだという。目立つところ、人が見ているところで、日本人は良い人になる。


「ルールを守らなあかんやんか?」というと、「なんで、守らなあかんの?」と平気でいう人があらわれた。日本人が長い間かけてつくりあげた社会や生活の行動規範なり様式は、規律を守る守らないというだけでなく、それをすることが「気持ちがいい」と思ってきたからこそ、「日本の文化」として承継してきた。ところがこの十数年前から、その感覚が判らない人が増えた。昨今の品質データ改ざん、品質不正問題の根っこも同じである。「いいよ、どうせわからないから」「いいよいいよ、だれも見ていないから」。人が見ていないと、手を抜き、ルールを守らなくなる。日本人は匿名になると、良い人でなくなる、悪い人になる。


「思う」と「想う」とは同じ「おもう」だが、意味がちがう。「思う」とは、頭のなかで考えること。ロジカルな思考とか思案として使われる。一方「想う」とは、相手のことが思い浮かぶことで、回想とか想像などという漢字が用いられる。つまり「想像」とは、対象の像(イメージ)が見えること、その姿が思い浮かぶことを意味している。


日本人は、この「想像」力を駆使して相手の姿を思い浮かべ、相手のことをおもいやって行動してきた。人が見ていても人が見ていなくても、ルールを守る。今の日本人に、この「想像力」が欠如しはじめている。こうやった方が良いんじゃない、こうしたらあかんだろう、この方が気持ちいい、こっちの方がスムーズにいくだろうと感じ、おもい、考え、それを実行してきたのが日本人だった。その「想像力」が、欠如しかけている。それは社会生活だけの話ではない、ビジネスの世界も同じである


(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  75掲載分

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