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2017年12月27日 by 池永 寛明

【耕育篇】 技術でブラックボックス化したプロセスを学びなおす

   

 

「フランス料理のソースには、地域のDNAが凝縮されている」と、フランスの料理人からお聴きした。「日本料理は出会いものが本質で、地域文化そのもの」と、上方の料理人からお聴きした。海から、山から、野から季節の旬の食材と食材をまぜあわせ、それぞれの食材の佳さを引き出しあって、112ではなく、3にも4にも5にもするのが日本料理だと。

 

かつて冷凍庫も冷蔵庫もなかった。調味料もなかった、梱包技術もなかった、クール宅急便もなかった、だから「季節の旬」を大切にした。気候、空気、風、気流、水流などによって日々変わる食材を、出汁(だし)がつなぎ、幾層もの味を織りあわせ、昆布、鰹、鮪などからひく出汁も、旬によって配合比率を変えていた。

 

「強い食材には強い出汁を、やさしい食材には弱い出汁を」という絶妙なバランスで、日本料理はつくられていた。しかしこの料理のプロセスをショートカットしたり、省いたりして、無くしてしまったりするようになった。1日も、2日もかけてつくるという手間やプロセスを、調味料や調理器具で一瞬につくりあげてしまうようになった。農業、輸送、調理などの技術の進歩によって、食卓に四季や旬がなくなり、一年中同じものが、どこの地域でも同じものが食べることができるようになった。しかし失われたものがある、「深味」がなくなった。味が表面的で単純化され、自然が育てた旬の食材、材料などを幾重、幾層ものプロセスで、丁寧に掛けあわせたり、交ぜあわせたり、混ぜあわせたり、手数をかけて、時間をかけてつくりだした、圧倒的な「深さ」がなくなった。

 

食文化の話をしているのではない。私たちの身のまわりは、このような「ブラックボックス」だらけだ。たとえば、わからないことがあったら、スマホで手軽に検索する。スマホで情報が手に入ると、わかったような、できるような気がする。この10年、スマホが人々の生活、人と人との関係、教育、仕事の進め方を劇的に変えた。目に見えているのは、インプットとアウトプット。インプットからアウトプットを導いたプロセスがブラックボックス化してしまった。さらにブラックボックスしたプロセス自体がなくなっていく。

 

ある大学で180名の大学生に、家に百科事典があるのかとお訊きしたところ、あると答えたのが3名だけだった。かつてはなにかを調べようとしたら、百科事典をとりだしてページをめくる。しかし調べたい項目になかなかたどりつかない。時間がかかる。調べているうちに、目的ではない事柄が目にとびこんだり、別の気になるものを読んだり見たりして、「関係ないもの」を読んだりした。その寄り道のような「関係ないこと」を学ぶことで、力がついた。

 

ビジネスの営業現場もそう。お客さまへの提案のために、お客さまを知るため、お客さまのところに行って、お客さまと話をする。直接話をして仕入れる情報だけでなく、お客さまのオフィスや工場に行くと様々なお客さまの情報が飛びこんでくる。一見関係のないような間接情報や雑談をつかんで編集したからこそ、お客さまへの提案品質が高まり、お客さまにとって価値あるものが生れた。スマホで検索するだけでは本当の「お客さまの姿、気持ち」はつかめず、良い提案はできない。

 

スマホ以前のビジネスや学びは、現地に行って、現物を見て、現地の人から話をお聴きして、おもったこと、考えたことを試してみて、うまくいったりうまくいかなかったりするという「経験」を積み、「成熟」していった。このような試行錯誤を繰り返して、様々な失敗をして、学んだからこそ、力が身についた。そのような「成熟期間」があったから、プロセスをひとつひとつ踏んできたから、強くなり、臨機応変に危機が乗り越えられた。それがなくなった。

 

スマホや技術を否定しているのではない。利便性や早さ、効率性を否定するのではない。それぞれに、良いこと、不都合なことがある、メリットとデメリットがあることを認識したうえで、技術を使う必要性があるのではないだろうか。技術に使われるのではなく、技術を使いこなす必要がある。技術によって得られるメリットのかわりに失われた「プロセス」がある。それがなんであるかをつかみ、そのプロセスを身につけることによって得られる。

 

先の上方料理人は自店のお弟子さんに、かつておこなっていた料理のプロセスを省略したりせず、ひとつひとつ愚直に体験させて、真の味をうみだす力を身につけさせている。お弟子さんはしんどそうだが、嬉しそうだ。

 

エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)

 

日経新聞社COMEMO  1227日掲載分