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2011年09月12日 by 豊田 尚吾

社会の厚生向上に資するか、幸福度指標

8月末に内閣府の「幸福度に関する研究会」が「幸福度に関する研究会報告案−幸福度指標試案−」を公表しました。幸福度に関する研究会とは、「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定)に盛り込まれた新しい成長及び幸福度に関する調査研究を推進するために設置されたもので、大阪大学の山内直人教授を座長とし、合計8名の有識者で構成されている研究会です(内閣府資料より)。

 

報告案の公表は、一部新聞にも取り上げられていましたが、今回の報告案は最終版ではなく、大きな扱いとは言えませんでした。確かに資料を見ても、まだ議論し尽くされていないような部分が散見されます。研究会では、今月中にも最終案をまとめる方針のようです。

 

今後これがどのように取り扱われるかは分かりませんし、このような明確な成果が期待しにくい取り組みに対しては、冷ややかな見方をする意見も聞こえてきます。イチャモンをつけようと思えばいくらでもつけられるのですが、個人的には非常に意味のあるチャレンジだと考えています。

 

ご存知の方も多いとは思いますが、幸福度研究というのは、従来経済指標(たいがいの場合はGDP)で国の厚生が評価されることに対して、それでは十分ではないとの考えから、GDPとは異なる厚生指標を見いだそうと取り組まれているものです。

 

そういいますと、この分野に詳しい方は、そのような試みは今までにも何度も取り組まれて皆うまくいかなかったではないか、とおっしゃるかもしれません。確かに、GDPに代わる一つの厚生指標をつくることには無理があります。今回、報告書にも明記されていますが、そのような統合指標を導出することは意図していないとのことです。これは賢明な姿勢であると思います。

 

また、フランスのスティグリッツ委員会やブータンの国民総幸福量(GNH)をはじめ、同様の取り組みが世界各地で行われているということも知っておくべきでしょう。もちろん、そうだかといって必ずしもこの試みに価値があるとはいえません。しかし、一概にナンセンスと切って捨ててしまうような研究ではありません。

 

詳細については報告書をお読みください。実は筆者も主観的な幸福度に関心があり、生活の厚生指標の多様化の必要性を感じていますので、この報告書にはいろいろと啓発されました。

 

一方で、試案としての指標の選択などに関しては、やや疑問も持ちました。それは研究会としても十分承知しているようです。この報告書はそれだけで完結するものではなく、この試案をきっかけに議論を始めることが目的だと報告書にも記してあります。

 

研究会メンバーは社会心理学や社会学の先生もおられますが、多くは経済経営系の有識者で占められていますので、より広い視点からの議論は不可欠でしょう。

 

報告書の中で特に興味を持ったのが、厚生指標に関する大枠の構造についてです。当然、それがこの研究会の肝になる部分であり、最も重要なアイデアであるといっても過言ではないでしょう。ここでは個人の基本的なニーズというものをベースに、構造を規定しています。よく知られているマズローの欲求5段階仮説ではなく、それを参考にしながらも、より実証的取り組みで修正された、アルダーファのERG理論に言及しています。

 

これは人間の基本的欲求を生存欲求(EExistence)、関係欲求(RRelatedness)、成長(GGrowth)に分類しており、報告書ではそれと「結果的」に整合的である3つの柱を提示しています(ERG理論を事前にどの程度参考にしたのか。このあたりの詳細な事情についてはよく分かりません)。

 

報告書にある、主観的幸福度に影響する要因としての3つの柱とは、経済社会状況、心身の健康、関係性の3つです。ERG理論との対応でいえば、経済社会状況が成長に、心身の健康が生存欲求に、関係性が文字通り関係欲求にあたります。筆者も類似の分析を行ったことがありますが、基本的な理解には同意します。

 

それらをさらに細かい次元(例えば、「所得と富」「仕事」など)、そして具体的な指標(「1人あたり実質保有資産」「ニート数」など)へと落とし込んでいっています(下図参照)が、このあたりから異論が出てきそうです。とはいえ、このような多次元の厚生尺度というものが国民の間に認知(承認)されたとして、それをうまく使いこなせるかどうかが課題になってきます。

 

GDPという指標は、それだけで国民の厚生状況を全て把握できはしないものの、景況感(実感)と比較的整合的な動きをしますので、今までメディアも生活者も非常に重宝してきました。しかし、多様な評価基準が存在すると、当然、ある指標は改善しているけれども、ある指標では悪化しているということが常態となります。その時、社会をどう評価して、どのような提案をしていけばよいのかという判断が今まで以上に難しくなります。

 

既存のマスメディアがその責を全面的に担うということではなく、新しい社会の中での新しい情報リテラシーが求められる時代になっていくはずです。幸福度指標が社会で活用され、国民の厚生向上に貢献するためにも、指標ができた後の「使い方」についても、実践的な検討を十分に行っていくことが不可欠です。

 

それを「幸福度に関する研究会」が行うべきかどうかは議論の余地があると思います。しかし、この取り組みが“やってみただけ”で終わらないためにも、政府には本腰を入れた姿勢を求めたいと考えています。

 

<幸福度指標案体系>

 

※「幸福度に関する研究会報告案−幸福度指標試案−」8ページ