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2011年02月16日 by 豊田 尚吾

生業と生きがいのバランス

 誰しも妙に頭に残っている言葉というものがあるのではないでしょうか。それほど名言とは思えないのだけれども、なぜか忘れられない。週刊誌のある特集を読んで、それを思い出しました。

 週刊ダイヤモンドの2011年2月12日号では「就活の虚実」という特集を組んでいました。20代前半の方々の厳しい就職活動状況や企業へのインタビューなど、若年者労働市場の現状が多面的に論じられていました。

 特に興味深かったのが、「働く」ということに対する識者のコメントです。特集の中には入っていない、「Data Focus(データフォーカス)」という公表された統計データに関するコラム面でも、タイミング良くそれに関する話題が取り上げられていました。(同誌24ページ)

 そこでは慶應義塾大学商学部の樋口美雄教授が、独立行政法人・労働政策・研修機構「日本人の就業上実態に関する総合調査」(2010年)の結果について評されていました。「就業者が生きがいを感じていること」という設問に対し、「仕事」と答える人が35%と、「余暇・趣味」の56%、「家庭」の43%(複数回答)よりも少なかったとのことです。

 これに対し、「金銭的処遇だけではなく、本人の努力や工夫で生産性が向上したら、余暇・趣味、家庭生活を充実させられるよう『ワーク・ライフ・バランス』の推進で応えることも、仕事への求心力を高める一つの施策かもしれない」と述べておられます。

 つまり、仕事に対して生きがいを持てないことは望ましくない、という問題意識がそこにあることが推測できます。それは「働く者にとって、金銭的報酬は生活の糧と同時に、企業がその人の存在に見いだしている価値であると考える面がある」という事実認識から導かれているようです。

 一方、別の場所(同誌43ページ)では、首都大学東京・都市教養学部の宮台真司教授が「適職幻想は、“仕事による自己実現”という、もはやありえない陳腐な発想と結び付いている」と断じておられます。「できない者は、仕事での自己実現は無理だ。それはそれでいいのだ。仕事はただの糧と腹をくくればいい。」とも述べておられます。

 その前のページではSNS株式会社ファウンダーの堀江貴文氏が「そもそも就職活動などやめるべきだ。自分のやりたいことはいつ見つかるかわからない。見つかるまでフリーターでもなんでもよい。20代なら全然大丈夫だ。」と論じておられます。

 それぞれの識者が、その方の持つ専門性というフレームワークの中で見える仕事像を述べておられます。その意味ではそれぞれに真実なのだと思います。ただ、主張を聞いている方の立場からいえば、戸惑ってしまうかもしれません。

 結局、それだけ多様な考え方が併存するということは、仕事、働くということがいかに生活者にとって重要かということを示しているのだと思います。それだけ重要なテーマなのですから、どう考えるかは自分で決めなければ仕方がないという、当たり前の結論に至ります。

※  ただし、上の引用は、それぞれの識者の主張の一部でしかありません。いつも申し上げているように、全体の文脈の中でしか、本当の思いは伝えられません。従って、これが各識者の考え全てであるとはお考えにならないでください。

 

 とはいえ、就職活動に直面する若い方々は経験も豊富とはいえず、もっと多くの参考を求めたいという気持ちがあるでしょう。そんな中、同誌の40ページから41ページにかけて「就活生544人が明かす『親はこんなアドバイスをくれた』」という記事が掲載されていました。「自分らしくしなさい」や「自信を持て」といった例が載っています。これを読んだとき、冒頭の“妙に頭に残っている言葉”が久々に浮かんできたのです。

 それは本当に何気ない一言で、おそらく当人(親ですが)も思いつきか、受け売りで言ったであろう、軽い言葉でした。「一番好きなことは仕事に選ばない方がいいよ。仕事っていうのはつらいことの方が多いから、一番好きなことを失ってしまうことになりかねないからね」

 一般的な会社に入る、つまり組織の一員となる場合には、当然組織の論理が個人の選好より優先しますから、不本意なことも甘んじて受け入れなければなりません。先述の宮台教授も「経済環境や経営環境が流動的になれば、労働市場も流動的にならざるをえない。つまり誰でも不本意な労働に陥る可能性が、きわめて高い。そんなときに、すべての自己実現を仕事に傾注するのは危険だ」とおっしゃっています。どこか通じるところがあるように思います。

 自らが起業する場合でも、一旦業を起こせば従業員はじめ利害関係者が増えていくわけですから、業の“継続”が目的にならざるをえない面があります。その意味では宮仕えならずとも、やりたい仕事ができるわけではないでしょう。

 先ほどの何気ない一言は取り方によっては非常に消極的な態度のようでもありますが、人生(生活)設計の中での仕事というものをどう位置づけるかという、きわめて戦略的なテーマの一つともいえると思います。

 当時、それほど深く考えたわけでも、深く考える能力があったわけでもありません。とはいえ、仕事や働くということに対し、一歩引いた目を持てたとはいえるかもしれないと、今では思っています。それが結果としてよかったのか、悪かったのかは(まだ)分かりませんが。

 それはともかく、仕事は手段であるとともに、やはりそれだけではない、目的の部分はあると思います。手段的側面、すなわち生業というのは短期的視点から重要なことであり、目的的側面、すなわち自己実現、生きがいというのは長期的視点から重要になってくることだと考えています。

 特に若い時には組織の論理の中で、適材適所だとは思えないような仕事に携わることが多く、失望することもしばしばです。長期的に見ても、自分がどんなキャリアを辿るかは運が左右する面が大きいと思います。

 とはいえ、それでも人生の多くの時間と労力を費やす仕事に対して、生業的側面だけを見るのは生産的ではないと思います。運が左右するということは生活におけるリスクと捉えることができます。そして、それをマネジメントする方法についても様々な論があります。季刊誌CELに登場してくださった、慶応義塾大学 SFC研究所 上席所員の高橋俊介氏の著書なども参考になると思います。

 仕事に関して、万人が“結果的に”幸運であることは難しい、というか無理でしょう。それでも若い方々には、仕事や働くことに対し、2つの側面(生業的側面と生きがい的側面)のバランスを意識しながら取り組んでもらいたいし、自分自身もそのように努めたいと思っています。

 働くことに関して、妙に頭に残る言葉を見つけたら、それはチャンスだと思って、その意味を突きつめてみてください。

 

下図は大阪ガス株式会社 エネルギー・文化研究所が毎年行っている「これからの住まいと生活に関する生活意識調査」の第5回(2009年実施)のデータです(回答者数860人)。
「あなたにとって仕事の意義はなんですか。最も近いものを一つ選んでください。」という設問に対する結果です。複数回答ではないので「生活のための手段」が過半数になっていますが、義務や生きがいという回答もあり、仕事が持つ多様な価値を表しています。

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